会への想い

 本研究会は、おもに透析患者と腎移植患者の精神的諸問題を解決する目的に1990年に発足した伝統ある会です。
 発足当時は、サイコネフロロジー研究会と称し、当時東京女子医科大学腎臓病総合医療センター所長 太田和夫先生と春木繁一先生が中心となって設立されました。
 末期腎不全の有効な治療手段として、透析療法と腎移植があり、その成績は飛躍的に向上し、患者の生命予後は確実に伸びました。しかし、彼らを取り巻く環境は厳しいものがあります。特に精神的諸問題を抱えているにもかかわらず、それに対して医療側が十分に応えきれていないのが実情でした。
 サイコネフロロジーは、これらの精神的な問題をただ精神科医、透析医、移植医、およびメディカル・スタッフが個々にバラバラに診るのではなく、横のつながりを持って(liaison: リエゾンとはフランス語で、;連携とか、つながりという意味)協力して解決しようとする学問であり、その根底にはコンサルテーション・リエゾン精神医学が基本にあります。
 最近は、さらに透析療法に従事しているメディカル・スタッフがモンスター・ペイシェントの言動や行動にしばしば躊躇させられていることが報告されています。このような課題に対しても本研究会は取り組んでいます。
 以上述べてきた心の問題に対して、一人一人で悩んでおらず、本研究会に積極的に参加して解決策を見出していただきたいと期待しております。

公益財団法人 新潟県臓器移植推進財団 理事長
高橋 公太


 現代医療は、何かにつけて機器計器に依存しています。維持透析療法も正しくその通りであり、このため透析医療は理性的・合理的に進む科学的業務だとのみ認識されるきらいがあります。しかし、日常の臨床の場では著しく感情的な要素を加味した人間関係が色濃く出てきます。患者の療法に対する理解や納得は理屈だけでは得られがたく、情動にも働きかける必要が多々あります。医療者と患者・家族とは良好な意思疎通と相互理解を通じて、良好な人間関係(信頼関係)を打ち立てて持続してゆくことが肝要だといつも痛感いたします。ここにこそ、サイコネフロロジーという領域の重要性が存在するのだと感じております。どのような疾患にも4つの苦痛が伴います:1)身体的苦痛、2)社会的苦痛、3)精神的苦痛、4)スピリチュアルペイン。病む人に相対する医療者はそれぞれの立場で、これらの 苦痛の幾つかを軽減または解消しようとします。透析スタッフは慢性腎不全患者の腎機能代替療法に関わるのであり、第一義的に身体的苦痛に向き合うことになりましょう。透析スタッフはそれに対して全力を尽くしつつ同時に他の苦痛にも目を向け、他の職種の協力を得ながらそれらの軽減・解消に努めることになります。ホスピスの創始者シシリー・サンダース女史(1919-2005)は、「私が癌の末期になった時に望むのは、牧師が話を聞いてくれたり祈ってくれることでもないし、精神科医が何かを聞いてくれることでもない。正確に痛みの原因を評価・診断したうえ治療してくれることだ。」と述べています。
 4つの苦痛のうち、まず身体的苦痛を可能な限り軽減してくれないことには、他の苦痛へは頭が回らないということだと理解しますが、思い当たる節が多々あります。その上で、精神科医・ホスピススタッフ・臨床心理士・ソーシアルワーカー等々の協働で、腎不全患者が持つ多様な苦痛・苦悩に対処することが望まれます。日本の維持透析患者の多くは透析単科のクリニックで加療されていますので、こうした透析スタッフだけの医療機関がサイコネフロロジーの真の恩恵にどうすれば浴することができるかも今後大きな課題の一つでありましょう。

札幌北クリニック
大平 整爾